アポの件数は目標に届いているのに、営業担当から「話を聞いたら予算も時期も決まっていなかった」「そもそも対象外の会社だった」と戻されてしまう。インサイドセールスやテレアポの現場でよく起きるこのずれは、最初の接点でどの条件を確かめ、どこで線を引くかが決まっていないことから生まれます。対象外条件の決め方、最初の会話で聞く項目、温度感の判定と渡し先の3ステップで、営業に渡す案件の質をそろえる方法をまとめました。
営業が受け取りたい「良質な案件」の条件
スクリーニングを始める前に、何をもって良質とするかを営業側と合わせておきます。ここが曖昧なまま架電やフォームの一次対応を始めると、インサイドセールスは「会えた件数」を、営業は「受注できそうか」を見ていて、同じアポを見ても評価が食い違います。
営業が受け取って困らない案件には、少なくとも次の3つがそろっています。
- 対象の会社であること。業種・規模・地域・既存の契約状況などが、自社の商材で成果を出せる範囲に入っている。
- 解決したい課題が先方の言葉で語られていること。こちらの説明に相づちを打っただけでなく、「月末の集計に3日かかっている」のように現状を具体的に話している。
- 次に何を決めるかが見えていること。いつまでに、誰が、何を比べて決めるのかが一部でも分かっている。
逆に、この3つのどれかが欠けている接触は「今は商談にしない」と判断してよい対象です。欠けていること自体は悪いことではなく、育成に回すか、対象外として記録して終わらせるかを分けるための材料になります。
| 区分 | 状態の例 | 次の扱い |
|---|---|---|
| 商談に渡す | 対象条件に合い、課題を具体的に話し、検討の時期や比較の予定がある | 営業に日程を渡し、会話の要点を引き継ぐ |
| 育成に回す | 対象条件には合うが、課題が漠然としている、または時期が半年以上先 | 情報提供のメールや資料で接点を保ち、時期を決めて再連絡する |
| 対象外 | 業種や規模が合わない、競合他社、情報収集だけが目的と明言している | 理由を記録して接触を止める |
この表は社内で一度文章にしておくと、新しく入ったメンバーにも同じ基準を渡せます。営業責任者とインサイドセールス責任者が30分ほど話して合意し、その場で1枚のメモにまとめるくらいの重さで十分です。
ステップ1 対象外条件を先に決める
良質な案件の条件を書き出すより先に、「この会社とは商談しない」という条件を決めます。理由は単純で、対象外の条件は過去の失注や解約から具体的に拾えるのに対し、理想の顧客像は抽象的になりやすいからです。
失注と解約の理由から拾う
直近1年ほどの失注案件と解約顧客をSFAやスプレッドシートから抜き出し、理由が「商材が合わなかった」系のものだけを集めます。価格交渉で負けた案件や、競合に僅差で負けた案件は除きます。残った案件を並べると、たとえば次のような共通点が見えてきます。
- 従業員が一定数より少なく、導入しても効果を実感できる業務量がなかった
- 本社で一括導入が決まる会社なのに、支店の担当者と話を進めていた
- 他社システムとの長期契約が残っていて、切り替えの時期が来ていなかった
- 業界特有の運用に対応できる機能が自社商材になかった
こうした共通点を、そのまま対象外条件にします。「従業員30名未満は対象外」「支店単独の決裁はできない会社は本社の担当者につなぐ」のように、判断できる形に書き直すのがコツです。
条件は5つ前後に絞る
対象外条件を細かく作りすぎると、担当者が会話の途中で確認しきれません。電話の会話で自然に確かめられるのは、業種、規模、拠点の状況、現在の契約状況、決裁の場所くらいです。それ以上の条件はリストを作る段階で除外するか、商談に入ってから営業が確かめる項目に回します。
また、対象外条件には必ず「なぜ対象外なのか」を一言添えておきます。理由が書いてあれば、担当者が迷ったときに条件の意図から判断できますし、商材のアップデートで条件を外すときにも判断がしやすくなります。
ステップ2 最初の会話で聞く項目を固定する
対象外でないと分かったら、次は商談に進めるかどうかを判断するための情報を集めます。ここで聞く項目を担当者任せにすると、ある人は予算ばかり聞き、別の人は課題だけを聞いて終わるため、案件の質が担当者ごとにばらつきます。
聞く項目は4つに絞る
BANT(予算・決裁権・ニーズ・導入時期)はよく知られた枠組みですが、最初の電話で予算を正面から聞くと警戒されやすく、答えが返ってこないことも多いです。そこで、最初の会話では次の4項目に絞り、予算は「比較対象」や「現状の費用」から間接的に推し量ります。
| 項目 | 聞き方の例 | 判断に使う点 |
|---|---|---|
| 現状と課題 | 「いま、その業務はどのように回していらっしゃいますか」 | 具体的な手順や時間、困っている場面を話してくれるか |
| 検討のきっかけと時期 | 「見直しを考え始めたのは、何かきっかけがあったのでしょうか」 | 期限や出来事(制度変更、人員の増減、契約更新)があるか |
| 関わる人 | 「決めるときは、どなたとご相談される形になりますか」 | 話している人が決裁者か、決裁者につなげる立場か |
| 比較の状況 | 「ほかにも情報を集めているサービスはありますか」 | 比較の段階にあるか、現状の費用感の手がかりがあるか |
「検討のきっかけ」は、時期を直接聞くよりも答えやすい質問です。「来年4月の制度変更に合わせたい」「担当者が退職して回らなくなった」といった答えが返ってくれば、時期と緊急度が同時に分かります。
会話の順番と長さを決めておく
テレアポで最初に4項目すべてを聞こうとすると、尋問のようになって電話を切られます。順番は「現状」から入り、相手が話し始めたら課題ときっかけを掘り、最後に関わる人と比較状況を確認する流れが自然です。一次対応にかける時間の目安を、たとえば5分前後と決めておくと、長話で他の架電が止まることも防げます。
会話の流れの例(勤怠管理の仕組みを案内する場合)
担当者「いま、毎月の勤怠の締めはどのように進めていらっしゃいますか」
相手「各拠点からExcelで送ってもらって、本社で手作業で集計しています」
担当者「拠点はいくつほどありますか。締めにはどのくらい時間がかかっていますか」
相手「8拠点で、毎月2〜3日は集計にかかりきりです」
担当者「見直しを考え始めたのは、何かきっかけがあったのでしょうか」
相手「担当が1人退職して、来年の春までに何とかしたいと思っています」
担当者「仕組みを入れるとなると、どなたとご相談して決める形になりますか」
相手「最終的には管理部長です。私が資料を集めて上げることになると思います」
この会話で、課題(8拠点の手集計に毎月2〜3日)、きっかけと時期(退職による人手不足、春まで)、関わる人(管理部長が決裁、相手は情報収集役)の3項目が埋まりました。残る比較の状況は、商談の日程を決めたあとに「ほかにも資料を取り寄せているところはありますか」と聞けば自然に確かめられます。
4項目のうち、どうしても聞けなかった項目は空欄のまま記録します。推測で埋めると、営業が商談で同じことを聞き直す手間が増えるうえ、あとで判定基準を見直すときのデータも汚れます。
フォームの問い合わせでも同じ項目を使う
Webフォームからの問い合わせの場合も、確かめる項目は同じです。フォームの入力欄を増やすと送信数が落ちるため、フォームでは会社名・氏名・連絡先・問い合わせ内容程度にとどめ、残りは初回の電話やメールの返信で確かめます。問い合わせ内容の自由記述欄に「現在の課題」「検討時期」といった例文を薄く表示しておくと、書いてもらえる情報が増えます。
ステップ3 温度感を判定して渡し先を決める
集めた情報をもとに、その接触を営業へ渡すのか、育成に回すのか、ここで終えるのかを決めます。判定を担当者の感覚に任せると「感じが良かったのでA」のような判断が混ざるため、会話の事実だけで決まるように基準を書いておきます。
A・B・Cの判定基準の例
| 判定 | 基準の例 | 渡し先 |
|---|---|---|
| A | 課題を具体的に話した/3か月以内に決めたい理由がある/決裁者本人か、決裁者が同席できる | 営業。1週間以内に商談を設定する |
| B | 課題はあるが時期が未定、または決裁者に届いていない | インサイドセールスが継続して接触し、時期が決まった時点で営業へ |
| C | 課題が見えない、情報収集だけが目的 | メールでの情報提供のみ。半年後に状況を確認する |
数字や期間は商材によって変わります。導入までに半年以上かかる大型のシステムなら「6か月以内」をAの条件にしてもよく、月額の小さなサービスなら「1か月以内」まで縮めてもかまいません。大切なのは、自社の平均的な検討期間に合わせて一度決め、全員が同じ物差しを使うことです。
Bの扱いで案件の量と質が決まる
アポ数の目標が厳しいと、Bの接触を無理にAとして営業へ渡したくなります。ところが、時期の決まっていない会社に営業が訪問すると、提案書を作っても「社内で検討します」で止まり、営業の工数だけが消えます。Bは「まだ渡さない」と決めたうえで、次にいつ、どんな情報を持って連絡するかを記録しておきます。たとえば「来期の予算策定が始まる1月に再連絡」「比較資料を送って2週間後に感想を聞く」といった形です。
営業に渡すときの引き継ぎメモ
Aと判定した案件を営業に渡すときは、会話で聞いた内容を短いメモにまとめて添えます。項目は次のとおりです。
- 相手の名前と役職、決裁に関わる人の名前
- 相手が話した課題を、相手の言葉のまま一文で
- 検討のきっかけと、決めたい時期
- 比較しているサービスや、現在の手段
- 商談で必ず確かめてほしいこと(聞けなかった項目)
このメモがあるだけで、営業は商談の冒頭で同じ質問を繰り返さずにすみます。相手にとっても「前回話したことが伝わっている」と分かるので、商談の最初の数分の印象が変わります。
判定の結果を記録し、月に一度基準を見直す
スクリーニングの基準は、作った時点ではあくまで仮説です。実際にAで渡した案件が商談でどうなったか、Cにした会社が後から問い合わせてこなかったかを見て、基準を直していきます。
SFAに残す項目
判定の結果だけでなく、判定の理由を残すことがポイントです。「A」とだけ記録されていても、後から見直すときに何が決め手だったのか分かりません。最低限、次の項目を入力欄として用意しておきます。
- 判定(A・B・C・対象外)と判定日
- 判定の理由(4項目のうちどれが満たされていたか)
- 対象外の場合はどの条件に当たったか
- Bの場合は次回の連絡予定日と、そのときに持っていく情報
見直しで見る数字
月に一度、営業とインサイドセールスで次の数字を並べて確認します。
| 数字 | 読み取れること | 動かす基準 |
|---|---|---|
| Aで渡した案件の商談実施率 | 低いなら、日程を入れても当日キャンセルや延期が多い | 決裁者の同席や、時期の条件を厳しくする |
| Aで渡した案件の提案・見積もりへの進捗率 | 低いなら、課題や時期の確認が甘い | 課題の具体性の基準を見直す |
| BからAへ上がった件数 | 少ないなら、Bの再連絡が止まっている | 再連絡の予定日を必ず入れる運用にする |
| 対象外にした会社からの後日の受注 | 出てきたら、対象外条件が厳しすぎる | 該当する条件を外すか緩める |
数字が少ない最初の数か月は、比率よりも個別の案件を振り返るほうが役に立ちます。営業から「この案件はAではなかった」と戻ってきたものを5件ほど集め、どの項目の聞き取りが足りなかったかを話し合うだけでも、基準はかなり締まります。
スクリーニングでよくある失敗
アポ数だけで評価している
インサイドセールスの評価がアポの件数だけだと、担当者にとってはBやCの接触もAとして渡すほうが得になります。評価には、渡した案件の商談実施率や、営業からの差し戻し件数も加えておくと、判定が甘くなるのを防げます。
断られた理由を記録していない
電話で断られた、メールに返信がなかった、という結果だけを記録しても次に生かせません。「他社と3年契約中」「今期は予算がない」といった理由が残っていれば、契約の切れ目や来期の予算時期に合わせて再び連絡できます。
営業側が基準づくりに参加していない
インサイドセールスだけで判定基準を作ると、営業が実際に受注している顧客の条件とずれることがあります。基準を決める場と月次の見直しには、案件を受け取る営業の担当者にも必ず入ってもらいます。
一度決めた基準を変えない
商材の機能が増えたり、価格プランが変わったりすると、対象にできる会社の範囲も変わります。新しいプランを出したのに、古い対象外条件のまま小規模の会社を断り続けている、ということがないよう、商材側の変更があったときは基準もあわせて見直します。
よくある質問
まとめ
良質な案件を営業へ渡すためのスクリーニングは、対象外条件を先に決める、最初の会話で聞く項目を4つに固定する、温度感を事実で判定して渡し先を分ける、の3ステップで組み立てられます。基準は一度で完成しないので、Aで渡した案件の結果を毎月営業と一緒に振り返り、条件を少しずつ直していきます。
まずは直近の失注案件を10件ほど並べ、商材が合わなかったケースの共通点から対象外条件を書き出すところから始めてみてください。